未来のかけらを探して

2章・世界のどこかにきっといる
―22話・ショックLvMAX―



シェリルに言われた西の人間の集落を目指して2,3日。
そろそろ日も傾きかけていた頃だ。
歩き続けてきたプーレ達の目に、
広い畑と草原に囲まれた開拓途中の村が見えてきた。
「うわぁ……全然ちがうところみたい。」
「ホンとだ〜、広いネェ。」
「いっぱいおやさい生えてる〜♪」
パササとエルンが、青々とした野菜を見て興奮気味にはしゃいでいる。
食べたいのだろうが、採ったら野菜泥棒だ。
もちろん、そろそろ人間達のルールを覚えてきた2人は、
今のところ食べてしまいそうな気配はないが。
「えーっと……あ、あそこが入り口みたい。」
「あそこ?なんか、しょぼいネ。」
パササが一言でばっさりと切り捨てる。
確かに今まで見てきた町と比べると見劣りする、小ぢんまりとした外観。
以前見た中で一番ひどい外見といえばエスキシェイス村だが、
あそこは廃村なので論外だ。
それにしても、ここにちゃんと人がいるのかどうかは少し心配になった。
もちろん、シェリルが嘘を教えたとは思わないが。
「もう少ししたら、きっとにおいもしてくるよ。
とりあえず、いってみよう?」
「そうだねぇ、いけばわかるよぉ〜。」
どちらにしろ、この辺りにはそこにしか集落が見当たらない。
迷うまでもなく、プーレ達はその小さな集落に向かって歩き始めた。


―ギルベザート開拓村―
木で雑に作られた門らしきものと、集落を囲む杭とロープだけの柵。
今まで行ったどんな小さな村も、
ここまで雑な造りかと首をかしげるような建物。
どうやらまだ造りかけの建物が多いらしく、
掘っ立て小屋のような仮住まいも多い。
道は中心の大通りだけがレンガや石で多少舗装されているが、
他はほとんどが地面むき出しだ。
また、一部では大きなテントがたくさん並んでいて、物を運ぶ人などで出入りが激しい。
生まれたばかりの、将来の希望と活気に満ちた集落。
雰囲気を短くまとめれば、こんなところだろうか。
「宿屋とかどこダロ?」
きょろきょろとパササが見回すが、
それらしい店の場所がいまいちよく分からない。
「あ、あれが宿屋だと思うよぉ〜。」
「あ、あれ??」
宿屋の証である「INN」の字が書かれた木の看板。
ここでは珍しいしっかりとした石造りの建物にそれがかかっているが、
周りにあるのはどう見ても大型のテントの群れ。
そこに大勢の人が出入りしている。
“どうやら、あの建物で受付だけして、実際はテントに泊まるようだな。”
今までに見たことのない、新鮮な光景だといえば聞こえはいい。
だが、要するに寝る場所が足りないので、
テントで野宿同然の待遇にされるという事だ。
「町なのにテントって、なんかサギだよねー……べつにいいけど。」
「きっとみんなテント命なんだよぉ〜。」
エルンは確信したようにそう言うが、間違っている事は言うまでもない。
もっともテントでの寝泊りに関しては、プーレ達は問題ない。
本来の生活スタイルと大差ないのだから。
寝床は外敵に襲われる心配がなく、風雨を防げて寝心地よくできればいいのだ。
寝袋や毛布だけでも十分気持ちがいいので、
別に野宿は問題ないことである。
ただ、これで正規の宿と変わらない料金を取ったら詐欺だ。
と、ルビーは思う。
「人がいっぱいだよー。入れるカナ?」
「う〜ん……入るしかないと思う。」
人がたくさんひしめいているような場所は、
どうしても入るのがためらわれるが仕方ない。
手馴れた様子の受付担当が3人もいるので、
手早くチェックインが済んでいるようだ。
「お〜い、今日は混んでないか?
この前あそこの町で聞いた話じゃ、こんなにいなかったって聞いたぞ。」
「あ〜、この前新規開拓者に補助金が出るようになったからな。
そのせいじゃないのか?」
そんな大人の声が、前方から聞こえてくる。
開拓者や補助金がどうなのかということは良くわからないが、
それが混む原因になっていることは確からしい。
確かに良く見れば冒険者というよりは普通の人に近い格好の人が多い。
一家総出でやってきたような客も多いように見受けられる。
そんな光景を見ながら少しの間並んでいると、
運が悪い事にこんな声が聞こえてきた。
「申し訳ございませーん!
今カウンターから4人目のお客様までで、当宿は満室ですー!!」
よく通る声が宿中に響き渡ったとたん、
ええっ、と周り中の人間が一気にざわついた。
ここがこの集落で一番大きな宿屋なので、ここに泊まれなかったら後は野宿しかない。
「えー?うそー……。」
並んだ甲斐がない。
「ありゃりゃぁ〜。また野宿だねぇ。」
「せっかくならんだのに〜!
トホホー……ついてないヨー。」
仕方なく他の客にまぎれて宿を出ようとしたとき、
壁にかかっているカレンダーが目に入った。
日付は、何故か最後に見た日付から数ヶ月単位で大幅にずれている。
「あれぇ?カレンダーおかしくない〜??」
「あ、ホントだー!」
店から出ようとする客の隙間を縫って、
プーレ達はどうにかカレンダーの前にたどり着いた。
改めてまじまじと眺めても、やはり最後に見た日付から大幅にずれている。
「おかしいね〜……なんでだろ?」
“お、確かにずれてる。んー、なんか引っかかるな。”
プーレ達はカレンダーが間違ってるのでは、と思ってしまうが、
日ごともしくは月ごとに替える以上、間違えるわけはない。
だからこそ六宝珠達は、嫌な予感がした。
“これはたぶん、違う世界に行ったせいで時間がずれたんだな……。”
『えーーー?!』
ルビーの言葉に思わず叫び、店に居た人全員の不審の目がプーレ達に集中する。
まるで、周り中をクアールやオーガなどの肉食モンスターに囲まれた気分だ。
じっと見つめるような視線を向けられる事は、
別に彼らのような動物でなくても嫌なものだ。
「あ゛……。」
とてつもなく居づらくなったプーレ達は、
宿から逃げて人の少ないほうに走り去った。


―村の外・畑―
大分宿から遠ざかったと思ったら、
すでに集落の外に出てしまっていた。
「ふぅ〜……ここまでくれば、もう、いいよねぇ……。」
「は〜、走りすぎてバテバテ〜……う゛〜。」
畑のわきまで走ったところで、パササとエルンが座り込む。
全力疾走してきたので、無理もない。
「2人とも、ぜいぜい言ってるけどだいじょうぶ?」
2人のペースに途中からあわせていたプーレは、
さすがチョコボといったところ。
結構走ったのに、ほぼ息切れはしていない。
止まっても座り込むことなく、疲れた仲間を気遣う。
とりあえず、先ほどのカレンダーのことが気になるので、
休憩がてら六宝珠に聞いてみることにした。
「さっき、ちがう世界にいたから、
時間がずれちゃったって言ってたけど……どういう意味なの?
“この世には、地界以外にも色々な世界がある。
それで、時間の流れる速さはどれもばらばらだ。”
「バラバラ?」
“そう。例えば、地界で3日経っても、
天界じゃまだ1日しか経ってなかったりするってわけだ。
でも、大してうろついた覚えがないからな〜……。”
“行ったのは次元の狭間に、よくわからない亜空間、
それから魔界だからな……。
たぶん、次元の狭間か亜空間辺りに、
極端に時間の流れが遅いところがあったんだろう。”
「それで、半年もぉ!?」
“正確には半年オーバー1年未満ってところだな。”
冷静に指摘するエメラルドの指摘は、この際どうでもよかった。
ともかく半年以上という時間は、プーレ達を真っ青にさせる。
先ほどは逃げることで頭がいっぱいになっていたが、
それがない今、半年以上経過した時間は鉄より重い現実だ。
「どっちでもいっしょだよ!ど〜しよ〜……。」
「ってことはもう、ポロワもフルフーもボクよりおっきいジャン!!」
恐らく幼なじみと思われる名前を叫びながら、
パササは頭を抱えてわめき散らす。
この年なら、半年違うと人間の子供でも差がついてしまうが、
プーレ達の場合はそれとは比較にならない。
比較的短命であるプーレ達が成体に達するまでは、約5年。
1年で約4歳年を取るとすれば、
半年違えば2歳も違ってしまうことになる。
この差は果てしなく大きい。
六宝珠に言わせれば「たかが」半年だが、プーレ達にとっては「大変」な半年なのだ。
「シェリルおねえちゃん、
おしえてくれればよかったのにぃ……。」
“おいおい……いくら神だって、そこまではわからないと思うぞ。
それに、まさかお前達が、そんなに長く地界から離れてたなんて思わないだろう。
無茶は言うものじゃない。”
エルンの少々八つ当たり気味な嘆きを、
ルビーが呆れたようにたしなめる。
なってしまったものは仕方がないのだ。
今さら、知るタイミングについて嘆いても意味がない。
「どうすればいいのかな……。」
「今日は野宿だよぉ?」
「そーじゃなくて〜……。」
こんなときにボケられても、脱力して困るだけだ。
エルンに天然ボケをかまされたせいだけではないが、
プーレは今後をどうするか考える気が失せた。
「でもさー、今日は野宿するとこ迷うよネー。
かくれるところないシ。」
「あー……言われてみればそうだね〜。
どうしよっか……。」
村の回りは、どこまで行っても畑と平原。
モンスターから身を隠せそうなものは、これといって見当たらない。
こういう見通しのいいところは、
寝ている間にモンスターに襲われやすいので好ましくないのだ。
見張り役をつけるのならまだいいかもしれないが、
あいにくこのパーティの見張り担当は、つい先日2人とも海に落ちている。
だから、ロビンとくろっちが加わる前のように、
夜の間モンスターに見つからない安全な場所で眠りたいのだが。
「う〜ん……いいとこあるかなぁ?」
“ちょっと、村の外には期待できそうもないな。
この辺りは凶暴な魔物は少なそうだし、
村の近くにテントを建てておくしかないだろう。”
「マジで?」
ルビーの提案に、パササが露骨に嫌そうな顔をした。
無理もないが、この際わがままは言ってられないのだ。
“マジで。いや、本当にそれしかないぞ。
同じ危険なら、まだ人間の住処に近いほうが安全だ。”
「う〜ん……そうだね。」
プーレも気乗りがしないようだが、
状況を考えて納得したようだ。
わがままを言っていると、終いには徹夜をする羽目になる。
それは一番避けたいところだ。
「じゃ、あそこのうらとかどうかなぁ?」
エルンが指したのは、建物の裏で人間からは目立ちそうにない場所。
先ほどの宿屋とテントの群れからは少し離れている。
「イイんじゃない?」
「じゃあ、あそこでいっか。」
本当はもう少し場所の選びようもある気がするのだが、
六宝珠達は彼らの決定をまぜっかえすような真似はしない。
彼らには、野宿の小さなテントを立てるのも一苦労。
早くテントを建て始めないと、日暮れに間に合わないのだ。


―深夜―
もう、人間でさえも眠りにつく者が多い時間。
時刻を言えば、日付が変わりそうな頃だろうか。
テントの外から、なにやら騒がしい気配がする。
魔物が来るらしいとか、
今のうちに地下室になどといった声も聞こえてくる。
どうも穏やかではない。いったい何が起きたのだろうか。
「なんだろう……?」
「気になるよねぇ〜……。」
そこまで騒音というほどではないが、
落ち着かない気配がするとこっちも落ち着けない。
先程まで静かだっただけに、余計に気になる。
「ん〜……見にいこうヨー。」
騒がしい気配で起こされたプーレ達は、
眠い目をこすりつつ様子を見に行くことにした。
会話からある程度察することはできるので、
何の騒ぎなのか、皆目見当がつかないわけではないが。



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2ヶ月すれすれデッドライン。危なかったです。
次でようやく、銀の風と話がいったん合流します。
そして、前回の不穏な締めの理由はプチ浦島太郎っていうオチです。
100%書き手の都合でこんなことになりました。
プーレ達の頭の上には、半年オーバーと、漫画的な石文字がのしかかっているでしょう。